専門職としてのInstitutional Researcher(1):スキルと人材像
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最初にお断わりしておかなければならないこととして、日本の大学には、産業医・司書・技官などごく一部の職を除くとほとんど高度専門職人材が在職していないという現実があります。つまり、大学に勤めている人とは、研究職である教員とジョブローテーションが前提となっている一般職員だけというのが現状です。したがって、「専門職としてのインスティテューショナル・リサーチャー」をご紹介したところで、現実問題としてそのような専門職は実在せず、あくまで理想像に過ぎないということになります。
それでもこのようなコラムを書いてみようと考えたのは、「IR担当者にはどのようなスキルが必要なのですか」「IR担当教員としてどのような専門分野の方を募集すればいいのでしょうか」といった質問を受けることが増えてきたからです。
私自身、教員採用情報サイト(JREC-IN)において、IR担当者がどのような学問分野の専門家として募集されるのかを検討してみたことがありますが、教育学、教育工学、教育社会学、情報工学、統計学など広い分野にわたっており、その大学が目指しているIRのあり方や、その大学で不足している人材像を示しているのではないかと思える傾向があっただけで、IR担当者の一般的なスキルセットはあまり分かりませんでした。
このような場合、インストラクショナルデザイナやURA専門職が導入されたときのように、IRの先進地域、特に、北米のIR担当者が持つスキルや育成システムを参照することも可能です。実際、IRが一般的である北米ではIR担当者のスキルセットは分かりやすい形で整えられており、多くの育成プログラムがあります。例えば、AIRにも育成コースがあり、いくつかの大学院にIRやIE(Institutional Effectiveness)のCertificateプログラムも存在します。
例えば、テンプル大のInstitutional Effectiveness Certificateのカリキュラム(1)は、主に「大学評価の設計・戦略」「調査法」「統計」から構成されており、ペンシルベニア州立大のGraduate Certificate in Institutional Research(2)では、必修単位として「全国調査のデータベース活用」「エンロールメントマネジメント」「アクレディテーション」「調査方法」「統計ツールの選択」などの内容を持つ科目の取得が求められ、選択必修単位の対象科目として「リソースマネジメント」「学習成果の評価」「リーダシップ」「学生の成功」などがリストアップされています。要するに、大学のマネジメント、外部評価への対応、調査、統計・データ処理という4分野が必要なスキルと考えられているようです。
これらのスキルは、当然日本のIRでも必要になるはずです。ただし、日本の大学と北米の大学は、大学評価の方法、情報公開の範囲、財務状況、人事制度、卒業率などがあまりにも異なるために、これらの育成コースのコンテンツをそのまま日本に持ち込んでも、あまり意味がないと感じます。また、上記のカリキュラムからもお分かりのように、北米におけるIR Professional、特に実務の中心となる立場の者は、幹部職員の扱いを受ける可能性が高く、日本のように特任教員や派遣あるいは非常勤職員として雇用するという発想自体、北米の大学では一般的ではないことにも注意が必要です。
そこで、日本型のIRスキルセットを考えてみると、北米の育成プログラムにない分野として、法務、大学ランキング、(システムとしての)データベース、BIツール、FD、URAなどに関する知識や実務経験も必要であると考えられます。
さらに重要な点として、特任教員や任期付き教職員として採用されたIR担当者が政治的に生き残って、しっかりした専門職としての地位を確立するモデルを示せなければ、IR自体が先細りしてしまう恐れがあることが挙げられます。そこで、このコラムシリーズでも、今後、IR担当部署の経費削減効果、IRに関連する学内ルール、IR担当と他の部署との関係性構築など、IR担当者サバイバルに向けたヒントをご紹介していく予定です。
<参考ウェブサイト>
https://gyazo.com/eca58add3ad690b9b67f1ad3f65f67a7
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